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 ▼【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  つー 06/10/18(水) 20:29
   ┗Re:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  タイ(WYN-2015) 06/10/29(日) 20:08
      ┗Re^2:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  つー 06/10/31(火) 1:51
         ┗Re:Re^2:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  タイ(WYN-2015) 06/10/31(火) 20:17

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 ■題名 : 【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』
 ■名前 : つー
 ■日付 : 06/10/18(水) 20:29
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   「月刊児童文学翻訳」9月号別冊の記事で出版予定を紹介し、「やまねこのおすすめ本」で既刊のレビューも掲載した、ヘルマン・シュルツの作品です。

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『ふたりきりの戦争』 ヘルマン・シュルツ作 渡辺広左訳
徳間書店 2006.9.30 ISBN 4198622361
"Flucht Druch Den Winter" by Hermann Schulz, 2002

 第二次世界大戦末期のドイツ。14歳の少女エンヒェンは戦時下の重い空気の中ではあったが、学校へ通い、こどもらしさを失わずに生活していた。しかし、戦争へ行った兄がロシアで行方不明になり、状況は急激に変化し始める。父親が反政府的な行動でゲシュタポに連行され、探しに出掛けた母親は爆撃に巻き込まれる。エンヒェンはひとりぼっちになり田舎の農家へ預けられるが、幸い善良な夫婦の家だったため、日本の疎開から連想するような暗い印象はさほどなく、落ち着いて暮らすことができた。だが、その村には労働力として強制連行されてきたロシア人もおり、彼らはもちろん差別をされ、虐げられていた。
 ある日、ロシア人たちが別の場所へ移されると耳にし、それが死に近づくことだと知ったエンヒェンは、ひとりの少年を逃がそうとする。ところが、少女の揺れ動く心はいっしょに逃げることを選択してしまう。そこから、2か月に及ぶふたりの逃亡生活が始まる。

 全編にエピソードが詰まっているが、特に後半でふたりが出合う場面は、戦時下の逃亡生活で起こるだろう状況を網羅しているのではないだろうか。作者のヘルマン・シュルツは多くを説明しない。しかし、その無言が返って虚しさの恐怖をじわりと突きつけてくる。次第に追い込まれ、逆境に流されていくふたりの変化は、戦争という仮定を超え、人間の本質に行き着いたような気がする。そして、最後のページから引き返すとき、生きるということをもう一度考えさせてくれる作品だった。

 つー☆WYN-1016☆




 ───────────────────────────────────────  ■題名 : Re:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  ■名前 : タイ(WYN-2015)  ■日付 : 06/10/29(日) 20:08  -------------------------------------------------------------------------
   つーさん

わたしも読みました。

顔見知り程度の知り合いでしかない少年、それもドイツ語が分からない(少なくともエンヒェンはそう思っていた)と一緒に逃亡してしまったエンヒェンの心の動きは、わたしには最後まで理解できませんでしたが、これもまた戦争の不条理のひとつなのでしょうか?

>最後のページから引き返すとき、生きるということをもう一度考えさせてくれる作品だった。
 
厳しい冬の寒さの中でお金も食料もなく、生存本能剥き出しに逃亡生活を続け、しまいにはその生存本能すら枯れかけるところまで追い詰められる二人の姿は、目を背けたくなるほどすさまじいものがありました。しかも作家の口調はあくまでも淡々としているため、かえって怖さを感じます。それでも二人はとうとう生きぬいたのです。生きて入ればこそ未来もある……。現代のわたしたちは、エンヒェンたちに比べると、生きる力が弱くなっているのではないかと少々心配になります。このエンヒェンの逞しさを見習いたいものです。

タイ(WYN-2015)

 ───────────────────────────────────────  ■題名 : Re^2:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  ■名前 : つー  ■日付 : 06/10/31(火) 1:51  -------------------------------------------------------------------------
   タイさん 

> 顔見知り程度の知り合いでしかない少年、それもドイツ語が分からない(少なくともエン
> ヒェンはそう思っていた)と一緒に逃亡してしまったエンヒェンの心の動きは、わたしに
> は最後まで理解できませんでしたが、これもまた戦争の不条理のひとつなのでしょうか?

 ロシア人の少女アンナに対する嫉妬というかコンプレックスが引き金になってると思います。アンナはエンヒェンにとって疎開先での親友に近い存在で、心のよりどころでもありますよね。アンナとロシア人少年のセルゲイは同国人という以外何もないんだけど、エンヒェンは彼を恋心とまでいかなくても気になっている。ところが、アンナとセルゲイは強制労働で連行された辛い状況を共有しているわけだから、エンヒェンには入り込めない壁がある。エンヒェンはその時点までは彼らに比べればかなり恵まれていて、ロシア人の境遇は肌で理解できていませんね。戦争とは無縁の少女の心内と、芯にある強い正義感、それと冷静なようでまだまだ幼稚な判断力が原因かな。距離感すらないわけですからね。
 エンヒェンの持つ「少女らしさ」が次第に変わっていく様子は、戦争と切り離して現代に置き換えられる問題でもあると思います。最後の展開は昔のフランスやイタリアの映画を観てるようでした。

 この程度ならネタバレにならないよね^^;

 つー☆WYN-1016☆
 


 ───────────────────────────────────────  ■題名 : Re:Re^2:【新刊読み物】『ふたりきりの戦争』  ■名前 : タイ(WYN-2015)  ■日付 : 06/10/31(火) 20:17  -------------------------------------------------------------------------
   つーさん

ありがとうございました。
さすが、つーさんは読みが深い! これで、もやもやが晴れました。

>最後の展開は昔のフランスやイタリアの映画を観てるようでした。

どちらかというと、イタリア映画かしら……。

タイ(WYN-2015)

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